A氏は0次元、つまり点の世界に住んでいる。一番こまるのは縦にも横にも上下にも身動きが取れないことだ。楽しみといえば、時計はないが、時間が過ぎ去るのが感じられることだ。あるときA氏は何かが自分の中を通り過ぎるのを感じたた。縦も横も上下も無い点の世界の世界だから何かがA氏の前や後や上を通り過ぎていくことは物理的に不可能なのだ。A氏は再三何かが自分の中を通り過ぎるのを感じたので、何かが通り抜けるのは間違いないが、どうも物質では無いようだと結論した。なんだかよくわからないモノなので Query のQと名付けた。
あるとき、Qが次々と自分の中を通り過ぎるのを感じた。どうも行ったり来たりしているようでもある。よく区別がつかないがQは一人ではなく、仲間がいるようだ。はじめのうちはよくわからなかったが、Qが通り抜けるのを感じることができるのはかすかに何か温かいモノが自分の中を通り抜けるを感じるためと判断した。微妙な差だが、少しばかり温(ぬく)いのはQたちがたくさん通り抜けて行くため、ほんのわずかに温かくなるのはわずかばかりのQたちが通り抜けて行くためだとも考えた。幸い我慢できないほどの熱さにはならない。Qたちは何か温かいモノを運んでいるのだろうか?ご苦労なことだ。よく疲れないものだ。腹がへるから、何かエネルギーのあるものを食わないとじきに死んでしまうのではないかと心配した。
あるとき、ためしにQが通り抜けようとするとき声をかけめた。
”Qさん、あんたどこから来てどこへ行くのかね?”
予期に反して、すぐに返事がきた。
”私もよくわからないんだ。何かに引かれている動いているようだし、何かに押されて動いているようでもある。”
もっといろいろ尋ねたかったが、すでにQは通り抜けて行ってしまったようなのであきらめた。しばらくして反対方向からさっきのQと同じかどうかわからないが、Qが通り抜けようとしたので尋ねてみた。
”Qさん、あんた何か温かいモノを運んでいないかね?”
Qは答えた。
”いや、何も運んじゃいないよ。ただ行ったり来たりしているだけだ。いわば、運動だよ。じゃー、バイバイ。今忙しいんだ。”
もっといろいろ尋ねたかったが、忙しそうなのであきらめた。
まもなくして、さっきとは反対の方向からまたさっきのQと同じとおぼしきQが通り抜けようとしたので尋ねてみた。
”Qさん、行ったり来たりしているのはわかったけど、速いかったりゆっくりしたりするのかい?
Qは忙しいせいかめんどうくさそう答えた。
”つよく引っぱられたり押されたりすれば速く動くし、よわく引っぱられたり押されたりすればゆっくり動く道理だ。私にはどうしようもない。いま速く動かされているから体がほてっているよ。じゃー、バイバイ。”
A氏はQが通り抜けるときに温かく感じるわけが少しわかったような気がした。
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